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千葉地方裁判所佐原支部 昭和49年(ワ)7号 判決 1976年4月27日

原告

岩崎陌夫

被告

山口悌輔

ほか二名

主文

一  被告らは、各自原告に対し金一、八九八万四、四〇七円および内金五八八万四、五七二円に対する昭和四九年四月一一日から、内金三三一万一、五二〇円に対する昭和五〇年二月二六日から、内金八五三万八、三一四円に対する同年六月二六日から、内金一二五万〇、〇〇一円に対する同年九月一七日から、各完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立て

一  原告

1  被告らは連帯して、原告に対し金一、九一二万一、七四二円および内金五九六万一、〇七二円に対する訴状送達の日の翌日から、内金三三五万四、一〇五円に対する昭和五〇年二月二六日から、内金八五四万八、三一四円に対する同年六月二六日から、内金一二五万八、二五一円に対する同年九月一七日から、いずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

原告は請求原因として次のとおりのべた。

1  本件事故の発生

原告は次の事故により傷害を受けた。

(一) 発生時 昭和四七年三月一日午後九時二五分ころ

(二) 発生地 千葉県香取郡小見川町木内七八四番地先県道

(三) 加害車両 被告三千雄が運転していた普通乗用自動車

(四) 被害車両 原告が運転していた原動機付二輪車

(五) 傷害の内容 右大腿骨、下腿骨々折

(六) 事故の態様

本件事故現場は住宅地に位置し、制限速度時速四〇キロメートルの舗装道路である。被告三千雄は加害車両を運転して事故発生地付近を無免許で制限速度をはるかにこえる時速約九〇キロメートルで進行中先行車を追い抜こうとして前記速度でセンターラインをこえ道路右側部分に進出させたまま進行し、対向して進行してきた被害車両運転の原告は、前方に加害車両を認め、そのあまりの無謀運転に危険を感じ衝突をさけるため道路左側一杯に寄り一時停止をして加害車両の通過を待つていたところ、右被告は的確なハンドル操作をしないで自車を被害車両に正面衝突させ、よつて原告に前記傷害を負わせたものである。

2  責任原因

(一) 被告三千雄は前記過失があるので民法七〇九条による不法行為責任がある。

(二) 被告悌輔、同せつは被告三千雄の両親であり、民法七一四条の法定監督者の責任もしくは同法七〇九条の不法行為責任がある。

すなわち、本件事故当時被告三千雄は一七才の少年で運転免許を受けていない。同被告は千葉日産プリンス販売所を経て本件事故当時は自動車の板金工場に勤務していたが、それらの職場はいずれも自動車を扱うもので、他人の自動車を運転する機会が甚だ多い。現に同被告は他人の自動車をしばしば無免許で運転していた。被告三千雄が他人の自動車を運転する可能性のあること、そして被告三千雄が自動車を運転すれば肉体的精神的に未熟なために事故を起す可能性のあることを、両親である被告らは十分予見しえたし、また予見すべきであつた。まして、両親である被告らは、本件事故当時被告三千雄と同居していたのであるから、同被告が自動車を運転しないよう監督注意することは十分可能であつたにもかかわらず、被告ら両親はそれを怠つた。被告ら両親が右の監督注意義務を怠つたということは、民法七一四条の監督者責任を負わなければならないと同時に、それ自体七〇九条の過失として同条の責任を負わなければならない。

3  損害

(一) 治療費

原告は本件交通事故による受傷により、昭和四七年三月二日から同年一〇月二六日までの間および昭和四八年一〇月二二日から昭和五〇年六月一〇日までの間入院加療を受け、昭和四七年一〇月二七日から昭和四八年一〇月二一日までの間は通院加療を受けた。その間の入院費は金二〇万六、八六二円である。

(二) 近親者付添費

(イ) 昭和四七年三月二日から同年一〇月二六日までの間および昭和四八年一〇月二二日から昭和四九年一月三一日までの間の合計三四一日間ならびに昭和四九年二月一日から同月七日までの間および同年一一月二八日から同年一二月二〇日までの間の合計三〇日間の各入院期間中の近親者付添費で、一日につき金一、三〇〇円の割合による金四八万二、三〇〇円

(ロ) 前記通院期間(三六〇日間)の近親者付添費で、一日につき金六〇〇円の割合による金二一万六、〇〇〇円

(三) 入通院中諸雑費

(イ) 日用諸雑費

入院中の日用諸雑費は入院九〇日までは一日につき金三〇〇円、九一日以後は一日につき金二〇〇円の割合とし、昭和四七年三月二日から同年一〇月二六日までの間および昭和四八年一〇月二二日から昭和五〇年六月一〇日までの間の合計八三六日間の合計金一七万六、二〇〇円。

通院中は一日一〇〇円の割合で金三万六、〇〇〇円

(ロ) 栄養補給費

昭和四九年二月一日から昭和五〇年六月一〇日までの入院期間中に要したもので金五万〇、八三五円

(ハ) 医師、看護婦謝礼 金一万一、七〇〇円

(ニ) 診断書費 金七〇〇円

(四) 交通費

前記通院期間中に要したタクシー料金で金二万六、〇八〇円

(五) 休業補償

原告は本件事故による受傷により、本件事故当日の昭和四七年三月一日から昭和五〇年六月二五日後遺症状が固定するまでの三年三月と二五日間就労できなくなつた。昭和四七年賃金センサス年令別平均給与額中四〇才から四九才までの一ケ月の収入金一四万三、〇九〇円を基準にすると、原告は右期間中に金五六九万九、七五一円の得べかりし利益を失なつた。

(六) 後遺障害による逸失利益

原告の本件事故による受傷の後遺障害は、昭和五〇年六月二五日固定したが、右後遺障害は自賠法施行令別表第一〇級第一〇号に該当するものである。そこで原告の年間収入を前記基準により金一七一万七、〇八〇円とし、稼働期間を四六才から六七才までの二一年間として、その間の労働能力喪失率を二七%として、複式年利ホフマン方式により年五分の中間利息を差引いた右後遺障害固定時の現価は金六五三万八、三一四円となる。

(算式一、七一七、〇八〇円×一四・一〇×〇・二七)

(七) 慰謝料

(イ) 治療期間中の慰謝料

原告は前記のごとく昭和四七年三月二日から同年一〇月二六日までの間および昭和四八年一〇月二二日から昭和五〇年六月一〇日までの間入院し、昭和四七年一〇月二七日から昭和四八年一〇月二一日まで通院したものであるから、入院期間一ケ月につき金一二万円、通院期間一ケ月につき金五万円の各割合による慰謝料を算定すると、金三八八万円となる。

(ロ) 後遺障害による慰謝料

前記後遺障害の程度からして、金二〇一万円をもつて相当である。

(ハ) 弁護士費用

本訴の弁護士費用として手数料金二五万円、謝金六一万七、〇〇〇円、合計八六万七、〇〇〇円を請求する。

4  原告は被告悌輔から金一〇八万円の弁済を本訴提起前に受けた。

5(一)  原告は訴状において、次の請求をした。

前記3の(一)のうち

昭和四七年三月二日から昭和四九年一月三一日までの分として金一六万四、四二二円

前記3の(二)の(イ)のうち

昭和四七年三月二日から昭和四九年一月三一日までの入院付添費として金四四万三、三〇〇円

前記3の(二)の(ロ)として金二一万六、〇〇〇円

前記3の(三)の(イ)のうち

昭和四七年三月二日から昭和四九年一月三一日までの入通院期間中の諸雑費金一一万三、二〇〇円

前記3の(四)の交通費金二万六、〇八〇円

前記3の(五)のうち

昭和四七年三月二日から昭和四九年一月三一日までの間の休業補償費金三二九万一、〇七〇円

前記3の(七)の(イ)のうち

昭和四七年三月二日から昭和四九年一月三一日までの入通院期間中の慰謝料(入院一一ケ月分、通院一二ケ月分)金一九二万円

前記3の(ハ)の弁護士費用金八六万七、〇〇〇円

(二)  原告は昭和五〇年二月二五日陳述の第二準備書面において、次のとおり請求を拡張した。

前記3の(一)のうち

昭和四九年一月一六日から同年一二月三一日までの分の治療費金四万二、四四〇円

前記3の(二)の(イ)のうち

昭和四九年二月一日から同月七日までおよび同年一一月二八日から同年一二月二〇日までの入院付添費金三万九、〇〇〇円

前記3の(三)の(イ)のうち

昭和四九年二月一日から昭和五〇年一月三一日までの入院諸雑費金七万三、〇〇〇円

前記3の(三)の(ロ)のうち

昭和四九年二月一日から昭和五〇年一月三一日までの間の栄養補給費金四万二、五八五円

前記3の(五)のうち

昭和四九年二月一日から昭和五〇年一月三一日までの間の休業補償として金一七一万七、〇八〇円

前記3の(六)のうち

昭和四九年二月一日から昭和五〇年一月三一日までの間の入院中の慰謝料金一四四万円

(三)  原告は昭和五〇年九月一六日陳述の第三準備書面において、次のとおり請求を拡張した。

前記3の(三)の(ロ)のうち

昭和五〇年二月一日から同年六月一〇日までの栄養補給費金八、二五〇円

前記3の(三)の(ハ)の医師、看護婦謝札として金一万一、七〇〇円

前記3の(三)の(ニ)の診断書費として金七〇〇円

前記3の(五)のうち

昭和五〇年二月一日から同年六月二五日までの休業補償費として金六九万一、六〇一円

前記3の(六)の後遺障害による逸失利益として金六五三万八、三一四円

前記3の(七)の(イ)のうち

昭和五〇年二月一日から同年六月一〇日までの入院慰謝料として金五二万円

前記3の(七)の(ロ)の後遺障害の慰謝料として金二〇一万円そこで前記一〇八万円の弁済は訴状により請求した損害金に充当することとする。よつて原告は被告らに対し、金一、九一二万一、七四二円および内金五九六万一、〇七二円に対する訴状送達の日の翌日から、内金三三五万四、一〇五円に対する第二準備書面陳述の翌日である昭和五〇年二月二六日から内金八五四万八、三一四円に対する後遺障害固定の日である同年六月二六日から、内金一二五万八、二五一円に対する第三準備書面陳述の翌日である同年九月一七日から、各完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

1  請求原因1の事実中(一)ないし(五)の事実は認めるが、(六)の事実は不知。同2の被告らの責任は争い、被告悌輔、同せつが被告三千雄の両親であること、被告らが同居していたこと、被告三千雄が本件事故当時一七才で運転免許を有していなかつたこと、同被告が千葉日産プリンス販売所を経て、本件事故当時は自動車の板金工場に勤務していたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。請求原因3の事実はいずれも争う。同4の事実は認める。同5は争う。

2  加害者が未成年者であつても、責任能力があるかぎり、かりに監督義務者に何らかの監督上の過失があつても民法七一四条の監督義務者の責任を生じないとするのが、判例・通説である。もともと、同条の責任は個人責任の原理から加害者が責任能力を有しない場合にのみ監督義務者に生ずるものである。また、被告悌輔、同せつの責任根拠を民法七〇九条に求めるとしても、本件加害車両は訴外八木清の所有であり、被告三千雄が事故当日同人から一時借用中、本件事故を起したものであつて、すでに工員として社会生活を営んでいる被告三千雄が、たまたま第三者の車両を借りて運転することにまで、被告悌輔、同せつは親権者として、予見可能性、および監督可能性はない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の(一)ないし(五)の事実および被告三千雄が本件事故当時無免許であつたことは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一号証ないし第一四号証によれば、本件事故は、被告三千雄が加害車両(普通乗用自動車を運転して、幅員六・九メートルのアスフアルト道路を佐原市方面から小見川町方面に向けて時速約八〇キロメートルの速度でゆるやかなカーブにさしかかつたさい、不用意にもハンドルを左に切つて急ブレーキをかけた過失により、自車の後部が右に振られ、あわてて、ハンドルを右に切りすぎたため自車を右斜め前方に滑走させ、おりから対向して進行してきた原告運転の原動機付自転車に自車左前部を衝突させた結果、生じたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると、本件事故は被告三千雄の運転操作上の過失による一方的な事故によるものである。よつて、被告三千雄は民法七〇九条により本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

二  被告悌輔および同せつの責任

被告三千雄は本件事故当時一七才の工員であつたことは、当事者間において争いのないところであり、成立に争いのない甲第一三、一四号証によれば、被告三千雄は本件事故に関して、道路交通法違反(無免許運転)、道路運送車両法違反(無登録車の運転)、自動車損害賠償法違反(損害保険未締結で運行)、業務上過失傷害被告事件により、昭和四八年一〇月四日当庁において懲役六月以上一〇月以下の禁錮(実刑)に処せられ、被告三千雄は控訴したが、昭和四九年二月二六日東京高等裁判所において控訴棄却の判決を受けたことが認められる。成立に争いのない甲第八、九号証によれば、被告三千雄は昭和四六年一月ころから佐原市内の自動車板金工場に勤務し、板金の仕事に従事していたが、同年六月ころ自動二輪免許を取得したが、普通免許は取得していなかつたものの、修理した普通車を移動させたりするため毎日少し位づつ道路上で普通車を運転し、佐原市内の他の板金工場へ乗用車やトラツクを運転していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。前記甲第八、九号証、証人八木博の証言によれば、被告三千雄は本件事故当日の午後八時ないし八時三〇分ころ、友人の八木博から本件加害車両を借用し、友人一人を乗せて本件加害車両を運転し、佐原市内でもう一人の友人を誘つて、さらに小見川町にいる友人を訪ねるため、小見川町に向けて、運転している際、本件事故を起したものである。なお、被告悌輔および同せつは、被告三千雄の両親であることは当事者間に争いのないところであり、前記甲第八号証、被告悌輔本人尋問の結果によれば、本件事故当時被告三千雄は被告悌輔、同せつの許で同居していたことが認められる。

ところで、被告三千雄は本件事故当時一七才であり、かつ板金工として稼働していたものであるから不法行為の責任能力があることは明らかである。民法七一四条にもとづく監督義務者の責任は加害者に不法行為の責任能力がないことを前提とすることは右条文の解釈上避けえない。しかし、監督義務者は、不法行為の責任能力を有する者であつても、同人が第三者に加害行為をしないよう監督すべき義務を負担しているのであるから、監督義務者が監督を怠たり、かつそのことにより加害行為が発生した場合には一般原則により民法七〇九条の不法行為責任を免かれないというべきである。本件の加害行為は、前認定のように被告三千雄が時速約八〇キロメートルの高速度でカーブ地点に差しかかつたにもかかわらず、不用意なハンドル、ブレーキ操作をしたことにある。前記甲第九号証によれば本件事故現場付近の速度制限は時速六〇キロメートルであることが認められる。したがつて、被告三千雄の加害行為の内容は速度違反をも含めた広い意味での安全運転の注意義務を怠つた点にあるというべきである、そこで、右の広い意味での安全運転の注意義務を遵守するよう、被告悌輔、同せつが被告三千雄に対し指導、監督を十分にしていたかどうかの点について直接の証拠はないが、被告悌輔本人尋問の結果および成立に争いのない甲第一〇号証によれば、被告三千雄は本件事故後一ケ月して速度違反で検挙され、昭和四七年七月一九日佐原簡易裁判所で罰金三万円に処さられて、確定したことが認められる。被告三千雄は、前認定のごとく事故に影響のある速度違反をともなつた広義の安全運転義務を怠つた結果、本件事故を起したにもかかわらず、一ケ月して速度違反の運転をしたということは、被告悌輔、同せつは親権者として被告三千雄に対し日項から安全運転についての指導、監督をすべきであるのに、それを怠つていたことを推認するに十分である。被告悌輔はその本人尋問において無免許運転については十分注意していたと供述しているが、被告三千雄は前認定のごとく普通車については事実上かなり運転能力を有しているのであるから、無免許で本件加害車両である普通車を運転したこと自体は、本件事故の直接の原因ではない。被告三千雄は本件事故当時すでに自動二輪免許を有していたのであるから、無免許運転に対する注意もさることながら、広義の安全運転義務の遵守にこそ、被告悌輔、同せつの指導、監督がなされるべきであつた。そして右の意味での監督義務違反がなければ本件事故は回避されたことは容易に推認しうるから、右被告両名は被告三千雄の起した本件事故につき、同被告とともに民法七〇九条の不法行為責任を免かれない。そして各被告らの責任は不真正連帯債務の関係にあるというべきである。

三  損害

1  治療費

成立に争いのない甲第一八三号証の一および原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和四七年三月二日から同年一〇月二七日までの間(二四〇日間)および昭和四八年一〇月二二日から昭和五〇年六月一〇日までの間(五九七日間)千葉県立佐原病院で入院加療を受け、昭和四七年一〇月二八日から昭和五〇年六月二六日までのうち右入院期間を除く期間同病院において通院加療(実治療日数は一八日間)および自宅治療をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。成立に争いのない甲第一五号証、甲第一六号証ないし第三四号証の各一、二、甲第一一一号証ないし第一一五号証の各一、二によれば、右の治療期間中に原告が同病院に出費した治療費は合計金一九万八、〇六二円であり右認定に反する証拠はない。その余の請求は棄却する。

2  近親者付添費

(一)  原告の本件事故による受傷は前記甲第一八三号証の一によれば、<1>腹部外傷、腸管膜裂創、<2>左下腿骨々折、<3>右大腿骨開放性骨折、<4>右膝蓋骨々折、の傷害を受け<1>については昭和四七年三月三日、<2>については同月二四日、<3>については同年四月二七日、昭和四八年一一月八日、昭和四九年一一月二八日の三回、それぞれ手術を受けていることが認められる。それに、証人岩崎嘉市の証言、それに弁論の全趣旨によれば、少なくとも原告が請求原因3(二)(イ)で主張する程度の原告の入院中における近親者の付添看護が必要であつたものと推認される。その付添料を一日につき金一、三〇〇円を相当と認め、右の付添日数三七一日として計算すると、入院中の付添費は金四八二、三〇〇円となる。(うち訴状による請求によるもの金四四万三、三〇〇円、第二準備書面によるもの金三万九、〇〇〇円。)

(二)  前記甲第一八三号証の一によれば、原告は昭和四七年一〇月二八日から昭和四八年一〇月二一日まで通院もしくは自宅療養をしていたことが認められる。そして右の間においても近親者の付添人が必要であつたことは前認定の治療内容からして明らかであるから、近親者の付添費を一日につき金六〇〇円を相当と認め、右の付添日数を三五九日として計算すると通院、自宅療養中の付添費は金二一万五、四〇〇円となり、その余の請求は棄却する。

3  入通院中の諸雑費

(一)  日用諸雑費

(イ) 原告は前認定のごとく、昭和四七年三月二日から同年一〇月二七日までの間および昭和四八年一〇月二二日から昭和五〇年六月一〇日までの間の合計八三七日間入院したことになるところ、入院当初九〇日までは一日につき金三〇〇円、九一日以後は一日につき金二〇〇円の割合とすると、八三七日間の合計は、金一七万六、四〇〇円となる。原告はこのうち金一七万六、二〇〇円の限度で請求しているので、右限度で認容することとする。

(ロ) 前認定のごとく原告は昭和四七年一〇月二八日から昭和四八年一〇月二一日まで三五九日間通院自宅療養したので、その間の雑費を一日につき金一〇〇円を相当と認めると、右期間中の雑費は金三万五、九〇〇円となる。

(二)  栄養補強費

証人岩崎嘉市の証言により成立の認められる甲第一一六号証ないし甲第一八〇号証、甲第一八四号証から甲第二〇二号証によれば、昭和四九年二月四日から昭和五〇年六月四日までの間に茶菓子、ちり紙、醤油、ソース、野菜等の購入代金として金五万、〇八三五円を支出したことが認められるが、右の費用は入院中の諸雑費の中に含まれるものと認められるから、栄養補強費としては認められず、この点に関する請求は理由がない。

(三)  医師、看護婦謝札

証人岩崎嘉市の証言およびそれにより成立の認められる甲第二〇三号証によれば、原告の治療に当つた医師、看護婦への謝札として送つたウイスキー、茶菓子等の費用として、昭和五〇年六月九日金一万一、七〇〇円を支出したことが認められる。右の支出は通常認められる支出であるから、右費用は原告の損害として認めるべきである。

(四)  診断書費

成立に争いのない甲第一八三号証の一、二の各診断書は原告本人尋問の結果によれば、千葉県立佐原病院において、それぞれ金五〇〇円、および金二、〇〇〇円を支出して作成してもらつたものであつて、右支出は本件事故による損害として相当なものである。

4  交通費

証人岩崎嘉市の証言およびそれにより成立の認められる甲第八四号証ないし甲第一一〇号証によれば、原告は前記入院期間中の昭和四七年一一月四日から昭和四八年九月までの間千葉県立佐原病院への通院に際しタクシー料金として金二万六、〇八〇円を支出したことが認められる。原告が通院にタクシーを利用せざるをえなかつたことは、原告の前記症状からして明らかであるから、右金額を損害として認める。

5  休業補償

原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時会社勤めをしており、毎月基本給、歩合給を含めて金一三万円ないし一四万円の収入を得ていたことが認められる。年間賞与等の収入がどの程度あつたかについては証拠上明らかでないが、常識的に判断される賞与等を加えると、当裁判所に顕著な労働省発表の昭和四七年「賃金構造基本統計調査報告」のうち「年令階級別によつて支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他の特別給与額」のうち四〇才から四九才までの男子労働者の年間平均収入金一七一万七、五〇〇円による月間収入金一四万三、一二五円程度の収入があつたことは推認に難くない。原告は休業補償の請求に当り右金額より少ない月間収入金一四万三、〇九〇円として算定して請求しているので、原告の算定に従い計算すると、原告は本件事故(昭和四七年三月一日)以後、後記認定の昭和五〇年六月二六日後遺症状が固定するまでの間少なくとも三年三月と二五日間就労できず、収入を得ることができなかつたものであることは原告本人尋問の結果により明らかであるから、その間の逸失利益は金五六九万九、七五一円となり、右認定に反する証拠はない。

6  後遺障害による逸失利益

成立に争いのない甲第一八三号証の一、二、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により右膝関節が五五度しか屈曲せず、左右の足関節の背屈が五度、底屈が七〇度の後遺障害がのこり、一時間位椅子に座つていると右膝関節に痛みを感じ、力を入れて立つていると五、六分間位しか立つことができず、長時間一定の姿勢を保つことができず、右後遺障害は昭和五〇年六月二六日固定し、その後遺障害の程度は労災等級障害表では一〇級に相当することが認められ、右認定に反する証拠はない。ところで、右後遺障害は当裁判所に顕著な自賠法施行令第二条の後遺障害等級表によれば一〇級一〇号に該当し、その労働能力喪失率は一〇〇分の二七であることが認められる。そして、原告が昭和四年九月七日生であることは本件記録上明らかであり、右後遺障害固定時には四六才であるから、今後六七才までは稼働可能であると認め、その間の労働能力喪失による逸失利益を年別ホフマン式により計算すると、金六五三万八、三一四円(円未満切捨)となる。

(算式一四万三、〇九〇円×一二×一四・一〇三×二七%)

7  慰謝料

(一)  原告は本件事故により、前認定のごとく、昭和四七年三月二日から同年一〇月二七日までの間および昭和四八年一〇月二二日から昭和五〇年六月一〇日までの間の合計八三七日間入院し、昭和四七年一〇月二八日から昭和四八年一〇月二一日までの間通院加療を受けたものである。そして入院期間中の慰謝料としては一ケ月一二万円、通院加療期間中の慰謝料としては一ケ月金五万円を相当と認めると、入院期間中の慰謝料としては少なくとも金三二八万円、通院期間中の慰謝料としては金六〇万円となる。

(二)  後遺障害の慰謝料

前記認定の後遺障害の慰謝料としては金二〇〇万円をもつて相当と認め、その余の請求は棄却する。

8  弁護士費用

以上の1ないし7の損害金合計は金一、九二六万四、四〇七円となるところ、被告悌輔から原告に対し一〇八万円の弁済がなされたことは当事者間に争いがないから、残額は金一、八一八万四、四〇七円となる。右残額および本件事案の内容等を考慮すると、原告が本訴追行のため負担すべき弁護士費用としては金八〇万円をもつて相当と認め、右金額を本件事故による損害と認め、その余の請求は棄却する。

9  結論

以上1ないし8の損害金はすでに弁済がなされた金一〇八万円を控除しなければ原告の本件事故による損害金は二、〇〇六万四、四〇七円となる。そこで遅延損害金についてみるに、1の治療費の損害金のうち金一五万五、六二二円については訴状送達の翌日(記録上明らかな昭和四九年四月一一日)から、金四万二、四四〇円については原告の第二準備書面陳述の翌日(記録上明らかな昭和五〇年二月二六日)から請求しており、2の(一)の近親者入院付添費のうち金四四万三、三〇〇円については右昭和四九年四月一一日から、金三万九、〇〇〇円については右昭和五〇年二月二六日から請求しており、2の(二)の通院付添費金二一万五、四〇〇円については右昭和四九年四月一一日から請求しており、3の(一)(イ)の入院の諸雑費のうち昭和四七年三月二日から昭和四九年一月三一日までの入院期間中の分金七万七、二〇〇円については右昭和四九年四月一一日から昭和四九年二月一日から昭和五〇年一月三一日までの分金七万三、〇〇〇円については右昭和五〇年二月二六日から、昭和五〇年二月一日から同年六月一〇日までの分金二万六、〇〇〇円については原告の第三準備書面陳述の翌日(記録上明らかな昭和五〇年九月一七日)から、それぞれ請求しており、3の(一)(ロ)の通院中の雑費金三万五、九〇〇円については、右昭和四九年四月一一日から請求しており、3の(三)、(四)の医師、看護婦謝札金一万一、七〇〇円、診断書費金七〇〇円についてはいずれも右昭和五〇年九月一七日から請求しており、4の交通費金二万六、〇八〇円については右昭和四九年四月一一日から請求しており、5の休業補償については、昭和四七年三月二日から昭和四九年一月三一日までの間の金三二九万一、〇七〇円については右昭和四九年四月一一日から、昭和四九年二月一日から昭和五〇年一月三一日までの間の金一七一万七、〇八〇円については右昭和五〇年二月二六日から、昭和五〇年二月一日から昭和五〇年六月二六日までの間の金六九万一、六〇一円については右昭和五〇年九月一七日から、それぞれ請求しており、6の後遺障害による逸失利益金六五三万八、三一四円については後遺障害の固定した昭和五〇年六月二六日から請求しており、7の(一)の昭和四七年三月二日から昭和四九年一月三一日までの間の入通院の慰謝料金一九二万円(入院一一ケ月金一三二万円、通院一二ケ月金六〇万円)については右昭和四九年四月一一日から、昭和四九年二月一日から昭和五〇年一月三一日までの間の入院慰謝料金一四四万円については右昭和五〇年二月二六日から、昭和五〇年二月一日から同年六月一〇日までの間の入院慰謝料金五二万円については右昭和五〇年九月一七日から、それぞれ請求しており、7の(二)の後遺障害慰謝料金二〇〇万円については右昭和五〇年六月二六日から請求しており、8の弁護士費用金八〇万円については右昭和四九年四月一一日から請求している。そこで、前記弁済のあつた金一〇八万円を前記7の(一)のうち昭和四七年三月二日から昭和四九年一月三一日までの間の金一九二万円の慰謝料に充当することとする。そうすると、遅延損害金については金五八八万四、五七二円については昭和四九年四月一一日から、金三三一万一、五二〇円については昭和五〇年二月二六日から、金八五三万八、三一四円については同年六月二六日から、金一二五万〇、〇〇一円については同年九月一七日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の限度で理由がある。原告の被告らに対するその余の請求は理由がないので棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 政清光博)

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